
弁護士 伊﨑 翔
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 伊﨑 翔
近畿圏内の地方裁判所や家庭裁判所で裁判所事務官・裁判所書記官として勤務。在職中に予備試験及び司法試験に合格し、弁護士となる。家庭裁判所での経験を活かし、相続等の家事事件を取り扱っている。
相続は、愛する方を亡くされたご家族にとって、故人の思いを形にし、次世代へ財産を円滑に承継する大切な手続です。しかし、相続には時として「自分の取り分が不当に少ないのではないか」という疑念や、家族間の感情的な軋轢が生じることがあります。そのようなトラブルを防ぎ、また不当な不利益を避けるために設けられているのが「遺留分(いりゅうぶん)」の制度です。
遺留分侵害額請求とは
遺留分とは、亡くなった方(被相続人)の兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に法律上保障された最低限度の取り分を指します。例えば、遺言で全財産を特定の相続人に相続させる旨が記載されていたとしても、他の相続人が遺留分を侵害されている場合、侵害された部分について金銭の支払いを求めることができます。これが「遺留分侵害額請求」です。
遺留分の割合は、相続人が直系尊属のみの場合は法定相続分の3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。
請求期限を過ぎないために
遺留分侵害額請求には、以下のとおり、厳格な期限が定められています。
時効:相続開始及び遺留分が侵害されていることを知った時から1年以内
除斥期間:相続開始から10年以内
これらの期限を過ぎると、請求権は消滅し、遺留分は認められません。
調停の流れと奈良の管轄裁判所
遺留分につき相手方と交渉がうまくいかない場合には、いきなり訴訟を提起するのではなく、原則として家庭裁判所で「調停」という話し合いの手続を経る必要があります(調停前置主義)。調停では、調停委員が双方の主張を整理し、合意による解決を目指します。
遺留分侵害額請求の調停を申し立てる場合、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。例えば、奈良市、大和郡山市、天理市、桜井市、生駒市、山辺郡(山添村)、生駒郡(平群町、三郷町、斑鳩町、安堵町)にお住まいの方を相手方とする場合は、奈良家庭裁判所が管轄の裁判所となります。
調停の申立てには、収入印紙1200円分、家庭裁判所が指定する額の郵便切手、戸籍謄本及び遺産に関する資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、残高証明書、債務に関する資料など)等の書類提出が必要となります。
最後に
遺留分に関する問題は、お金だけでなく、家族間の感情的な対立も伴うことが多く、複雑になりがちです。請求の期限を守ること、正確な計算をすること、そして適切な手続を選ぶことが、トラブルをスムーズに解決するためには非常に重要です。もしあなたが遺留分侵害の可能性があると感じた場合や、逆に遺留分侵害額請求をされた場合は、できるだけ早く弁護士に相談し、適切なアドバイスとサポートを受けることを強くお勧めします。