
弁護士 伊﨑 翔
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 伊﨑 翔
近畿圏内の地方裁判所や家庭裁判所で裁判所事務官・裁判所書記官として勤務。在職中に予備試験及び司法試験に合格し、弁護士となる。家庭裁判所での経験を活かし、相続等の家事事件を取り扱っている。
遺産相続をめぐる問題は、親族という近しい関係の中で発生するため、感情的な対立を伴いやすく、冷静な話し合いが困難になることも少なくありません。相続人同士での遺産分割協議がまとまらない場合や、話し合い自体に応じない相続人がいるような場合には、家庭裁判所の手続を活用することで解決を図ることが可能です。
主な法的手続には、「遺産分割調停」と「遺産分割審判」があります。それぞれの制度について、実務上のポイントを交えて解説します。
目次
遺産分割調停-話し合いによる円満な解決のために
家庭裁判所に申し立てて行う話し合いの場、それが「遺産分割調停」です。裁判官と2名の調停委員から構成される調停委員会が、中立の立場から相続人それぞれの事情を丁寧に聞き取り、合意形成に向けて助言やあっ旋を行います。
この手続きは非公開で行われ、プライバシーの保護にも配慮されています。各相続人とは個別に面談形式で進めるのが一般的で、相手方と直接顔を合わせずに済むため、対立が激しい場合でも利用しやすい制度です。
【申立費用・必要書類】
調停は相続人の1人からでも申立可能です。必要書類には、戸籍謄本や遺産の内容を証明する書類(不動産の登記事項証明書、預金通帳の写し等)が含まれます。費用は収入印紙1,200円と、郵便切手が数千円程度です。
【調停の成立】
全員の合意が成立すれば、「調停調書」が作成されます。この調書には確定判決と同等の効力があり、不動産登記や強制執行も可能です。
【調停における留意点】
- 相続人の確定:調停には相続人全員の参加が不可欠です。戸籍で確認が必要となります。
- 遺産の範囲に争いがある場合:事前に民事訴訟(遺産確認の訴え等)で解決を図る必要があります。
- 行方不明者がいる場合:不在者財産管理人や失踪宣告が必要になる場合があります。
- 未成年がいる場合:親権者も相続人である場合などには、特別代理人の選任が必要になります。
- 遺言との関係:有効な遺言書がある場合でも、相続人全員の合意があれば異なる分割も可能です。
また、調停は感情のぶつかり合いになりやすいため、証拠となる資料を準備し、冷静かつ客観的な主張を行うことが重要です。
遺産分割審判-裁判所による法的判断
調停で合意が成立しない場合、調停は「不成立」となり、自動的に遺産分割審判に移行します。審判では、裁判官が証拠と当事者の主張を踏まえ、法律に基づいて適切な遺産の分割内容を判断します。不服がある場合は、審判書の送達から2週間以内に即時抗告を行う必要があります。
【調停前置主義との関係】
離婚訴訟などと異なり、遺産分割には調停前置主義はありません。そのため、いきなり審判を申し立てることも可能ですが、実務では、特段の事情がない限り、調停を経ずに審判を申し立てたとしても、裁判所がまず調停に付すのが一般的です。
弁護士に相談すべきケースとは?
- 他の相続人との協議がまとまらない
- 相続人の一部と連絡が取れない
- 特定の相続人が被相続人から生前にもらっていた金銭につき、遺産分割で考慮してほしい(特別受益)
- 被相続人が亡くなるまで介護していたことを遺産分割で評価してほしい(寄与分)
- 相続人の中に未成年者や行方不明者などがいる
- 遺言書の有効性に争いがある
- 調停で自分だけが不利になりそうで不安
このような場合、法律や手続に精通した弁護士が関与することで、権利を適切に主張し、有利な解決に導く可能性が高まります。
まとめ
相続は、法的・実務的な手続きに加え、家族関係や感情のもつれが複雑に絡み合う分野です。話し合いがまとまらない場合には、調停や審判といった制度を活用することが、最終的な解決への近道となります。
もし相続問題でお困りの場合は、早期に法律の専門家にご相談されることを強くお勧めいたします。早い段階での適切な対応が、後々の大きなトラブルを防ぐ第一歩となります。