弁護士 伊﨑 翔
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 伊﨑 翔
近畿圏内の地方裁判所や家庭裁判所で裁判所事務官・裁判所書記官として勤務。在職中に予備試験及び司法試験に合格し、弁護士となる。家庭裁判所での経験を活かし、相続等の家事事件を取り扱っている。
相続のご相談の中で、特に多いのが「親の預貯金の使い込み(使途不明金)」に関するトラブルです。
- 「実家で同居していたきょうだいが、認知症の親の口座から勝手にお金を引き出している気がする」
- 「相続の話し合いを始めたら、預金が極端に少なかった」
このような不安や疑問を感じたとき、法律的にはどのような対応ができるのでしょうか。
ここでは、
- 親が存命の場合(相続開始前)
- 親が亡くなった後(相続開始後)
の2つの場面に分けて、相続問題を扱う弁護士の立場から解説します。
目次
親が存命の場合(相続開始前の対応)
親が存命で、特定の親族による使い込みが疑われる場合、早めの対応が被害拡大を防ぐポイントです。なお、以下の内容は親の判断能力が低下している場合を想定しています(認知症など)。
取引履歴の調査
使い込みを問題にするには、客観的な証拠が欠かせません。
基本となるのは、銀行口座の入出金明細(取引履歴)です。
ただし注意が必要なのは、親が存命の場合、たとえ同居している家族であっても、原則として、本人以外は銀行から取引履歴を開示してもらえないという点です。
認知症などで判断能力が低下している場合、本人の同意を得ることも難しくなります。
成年後見制度の活用
そこで、使い込みを止める手立てとして有効なのが、成年後見制度です。
成年後見制度とは、認知症等により判断能力が不十分である方について、成年後見人等がその判断能力を補う制度のことです。
家庭裁判所で選任された成年後見人等は、本人に代わって財産管理を行う権限を持ちます。
使い込みが問題となる場合には、原則として弁護士などの第三者が後見人に就任します。
成年後見人等が選任されると、
- 銀行に対して本人の同意なく取引履歴の開示請求ができる
- 不正な引き出しが判明した場合、使い込んだ相手方に対して不当利得返還請求や損害賠償請求などを行い、財産を取り戻すことが可能
となります。
親族間で対立があるケースでは、第三者である成年後見人等が入ることで、公平な財産管理ができるというメリットもあります。
親が亡くなった後(相続開始後の対応)
相続が始まってから初めて使い込みに気付くというケースは少なくありません。
相続人による取引履歴の調査
親が亡くなった後は、相続人であれば単独で、銀行に対して
- 取引履歴
- 残高証明書
などの開示を求めることができます。
「いつ・いくら・どのように引き出されたのか」を確認し、窓口払戻しの場合は筆跡、ATMの場合は時期や回数などを確認します。
話し合いで解決できる場合
使い込みをした相続人が事実を認め、その分を精算する旨の合意ができれば、遺産分割協議や遺産分割調停の中で解決できることもあります。
使い込みを否定された場合は裁判が必要
問題となるのは、相手方が「親に頼まれた」「親のために使った」「贈与だった」などと主張し、使い込みを否定する場合です。
このように事実関係に争いがある場合、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたとしても判断されないことが一般的です。
その場合、地方裁判所などで不当利得返還請求訴訟などの裁判を別途起こす必要があります。
つまり、
- 「遺産をどう分けるか」(遺産分割)
- 「使い込まれたお金を取り戻す」
は、それぞれ別の手続になる可能性があるということです。
裁判で重要になるポイント
裁判になった場合、使い込みを主張する側が証拠を示す必要があります。
主なポイントは、
- 通帳・印鑑・キャッシュカード等を誰が管理していたか
- 親の生活費としては不自然な高額出金がないか
- 「親のために使った」という主張を裏付ける領収書等があるか
- 親が認知症の診断を受けていたか否か
などです。
もっとも、親が亡くなった後に上記に関する証拠の収集が困難となることが多々あるため、できるだけ生前に使い込みを防ぐ方策を採ることが重要です。
相続の不安を感じたら早めの相談を
親の預貯金等の使い込みは、放置すると証拠が失われたり、請求権の消滅時効が経過するおそれがあります。
相続開始前の場合は、成年後見制度を活用し、早期に財産管理と調査を行うことが重要であり、相続開始後の場合は、取引履歴を精査し、話し合いで解決しなければ裁判も視野に入れる必要があります。
使い込みの立証には、専門的な知識と証拠分析が不可欠です。
相続や使い込みについて少しでも不安を感じたら、できるだけ早い段階で弁護士にご相談ください。



