弁護士 芳林 貴裕
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕
奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて約4年半の間勤務した後、地元・奈良に戻る。遺産分割、相続放棄、遺留分侵害額請求などの実務に幅広く従事している。
親族が亡くなった後、避けて通れないのが銀行口座の相続手続きです。 「キャッシュカードの暗証番号を知っているから」「葬儀費用が必要だから」と安易に引き出してしまうと、後々の遺産分割協議で他の相続人とトラブルになったり、最悪の場合「単純承認」とみなされて借金を相続してしまったりするリスクがあります。
本稿では、被相続人名義の預金がどのように扱われ、どのような手続きを経て分割されるのか、法律の専門家が詳しく解説します。
目次
銀行口座の「凍結」とその理由
金融機関は、預金者が亡くなったことを知ると、即座にその口座を凍結します。
なぜ凍結されるのか
銀行は、一部の相続人が勝手に預金を引き出し、他の相続人の権利を侵害することを防ぐ義務があるからです。凍結されると、引き出しはもちろん、公共料金の引き落としなども一切ストップします。
凍結のタイミング
役所に死亡届を出しても、自動的に銀行へ連絡が行くわけではありません。多くの場合、相続人からの連絡や、新聞の悔やみ欄、地域の情報などを通じて銀行が把握した時点で凍結されます。
遺産分割までの流れ:4つのステップ
預金を適切に分けるためには、以下のステップを踏む必要があります。
ステップ①:残高証明書と取引推移の取得
まずは「いくらあるのか」を確定させます。 被相続人が利用していた全ての金融機関に対し、「死亡日時点の残高証明書」を請求します。また、生前に不自然な引き出しがなかったかを確認するため、過去の「取引推移一覧表(明細)」を併せて取得しておくことも考えられます。
ステップ②:遺産分割協議
相続人全員で、誰がどの割合で預金を受け取るかを話し合います。
ステップ③:遺産分割協議書の作成
合意ができたら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。 銀行手続きには、銀行所定の書類等へ相続人全員の署名と実印の押印、および印鑑証明書などが必要です。一人でも協力が得られない場合、銀行は原則として払い戻しに応じません。
ステップ④:銀行への払い戻し請求
必要書類を揃えて銀行の窓口に提出します。不備がなければ、指定した相続人の口座に振込が行われます。
弁護士が教える「よくあるトラブル」と対策
預金相続において、弁護士が相談を受けることが多いトラブルは主に2つです。
使途不明金の問題
「亡くなる直前に、同居していた長男が勝手に数百万円引き出している」といったケースです。 これが判明した場合、引き出した人は「不当利得」として遺産に返還するか、自分の取り分を減らす調整が必要になります。通帳の明細を遡って調査することが不可欠です。
遺産分割協議への非協力
「音信不通の相続人がいる」「仲が悪く、判を押してくれない」というケースです。 銀行は1円の誤差も許さないため、全員の合意がない限り手続きは止まってしまいます。この場合、弁護士が交渉を代行するか、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てて解決を図ることになります。
まとめ
預金の相続は、単に銀行へ行けば済むというものではなく、その背後にある「相続人の確定」と「遺産分割の合意」が法的に整っていることが前提となります。
感情的な対立がある場合や、預金の使い道に疑問がある場合は、早めに専門家へ相談することで、事態の長期化を防ぐことができます。当事務所では、戸籍の調査から遺産分割協議書の作成、預金の払戻手続まで一貫してサポートしております。



