弁護士 伊﨑 翔
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 伊﨑 翔
近畿圏内の地方裁判所や家庭裁判所で裁判所事務官・裁判所書記官として勤務。在職中に予備試験及び司法試験に合格し、弁護士となる。家庭裁判所での経験を活かし、相続等の家事事件を取り扱っている。
遺言書が複数見つかった場合、
「どれが本当に有効なの?」「どの内容が優先されるの?」
と迷われる方は少なくありません。
今回は、複数の遺言書が存在するケースについて、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
目次
基本原則:後の遺言が優先する
遺言は、遺言者の死亡によって初めて効力が生じます(民法985条1項)。
また、遺言者は生前であればいつでも遺言を撤回することができ(民法1022条)、新たに書き直すこともできます。
このため、複数の遺言がある場合は「後に作られた遺言が優先」するのが原則です。
内容が矛盾する場合
古い遺言と新しい遺言が同じ財産について異なる内容を記しているときは、その異なる部分について、後の遺言により前の遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。
たとえば、「自宅を長男に相続させる」という遺言のあとに、「自宅を次男に相続させる」という遺言が出てきた場合、後の遺言が有効になります。
内容が矛盾しない場合
前の遺言が「自宅は長男へ」、後の遺言が「株式は次男へ」といったように、内容が重ならない場合は両方の遺言が有効です。
つまり、遺言の内容が抵触しない部分は併用できます。
行動によって撤回されたとみなされる場合
新しい遺言を作らなくても、一定の行動によって古い遺言が撤回されたとみなされる場合があります。
生前処分による撤回
遺言に反する財産処分を行ったときは、その部分の遺言は撤回されたとみなされます(民法1023条2項)。
たとえば、「A土地を長女に相続させる」と記載していたにもかかわらず、生前にその土地を第三者へ売却した場合、その遺言部分は無効です。
遺言書の破棄
自筆証書遺言を遺言者本人が故意に破棄した場合、その部分の遺言は撤回されたとみなされます。
実際に、最高裁平成27年11月20日判決では、自筆証書遺言の文面全体に赤色のペンで斜線を引いた行為が「撤回の意思表示」にあたるとして、遺言全体を無効と判断しました。
一方、公正証書遺言の原本は公証役場に保管されているため、遺言者が自分の手元の正本や謄本を破棄しても撤回にはなりません。
撤回された遺言は復活できる?
仮に、後の遺言によって前の遺言が撤回された後、その後の遺言をさらに撤回したり、効力を失わせたりしたとしても、原則として前の遺言の効力は復活しません(民法1025条本文)。
トラブルを防ぐためのポイント
複数の遺言書が存在すると、相続人間で解釈が分かれ、争いに発展しやすいのが実情です。
トラブルを避けるために、以下の点を意識しておくとよいでしょう。
- 新しい遺言書を作成する際は、「前の遺言を撤回する」旨を明記する
- 公正証書遺言など、公的機関を利用して遺言書を作成する
- 定期的に内容を見直し、財産や家族関係の変化に応じて更新する
まとめ
遺言は、遺言者の「最後の想い」を法的に実現するための手段です。
しかし、複数の遺言が存在すると、解釈や効力をめぐって無用な争いを招くことがあります。
もし遺言の作成や内容の見直しに不安がある場合は、相続・遺言に詳しい弁護士に相談することが何よりも安心です。
専門家の助言を受けながら、確実にご自身の想いを形にしましょう。



